先輩のH村先生からの紹介で、高次脳機能障害のあるAさん(60代)の相談に乗っていました。
Aさんは定年まで勤めた後、年金暮らしです。立派な住宅にお一人で住んでいました。
ご親族とは疎遠で、身体に軽い麻痺があることから、施設入所と、金銭管理をサポートしてほしいとの内容でした。
やや厭世的な気質でしたが、大変お元気でした。
3回の面談を重ね、未記帳の通帳を預り、「コピーを取って後日返しますね」ということで別れたのが、木曜日の午前中でした。
これが最後の会話になるとは、Aさんも考えていなかったと思います。
翌週火曜日の午前、担当のケアマネージャーHさんから「状況を確認中ですが、訪問したヘルパーさんから連絡があり、Aさんが自宅で亡くなったようです。」と電話がありました。
電話の言葉は理解できているのですが、数日前までピンピンしていたAさんが死んだというのは、全く現実味が感じられませんでした。
今までに、2人の後見人を喪っていますが、いずれもその前兆はありましたから、心の準備がある程度できていました。
しかしAさんの場合、うまく言えないのですが、言葉が沁み込んでこないというか、認めたくないというか、要は「信じられない」という一言になるのでしょうが、とにかく複雑な思いでした。
Hさんが「Aさんのご自宅は、救急隊と警察がいるので、行っても入れないと思います」と言ってくれなかったら、他の予定をキャンセルして、とにかく駆けつけていたと思います。
一報を受けてから3時間ほど後、外出中の携帯電話に、警察の刑事課から丁寧な口調で電話がありました。
刑事「Aさんの家の中に通帳やカードが見当たらないのですが、先生はご存じないですか?」
私「私が預かっています」
刑事「いつから預かっているのですか・・?」「経緯を教えて下さい・・?」など、いくつかの質問があり、事情を電話で話しました。
刑事「わかりました。またお伺いしたいことがあれば、ご連絡させて頂きます。」
私「承知しました」
警察から電話がかかってくることはありませんでした。事件性はないと判断したのだと思います。
後から聞いた話では、服薬していた薬が、木曜日の分から飲まれていなかったそうです。
どうやらAさんが亡くなった日は、元気に別れたその日だったようです・・・。
数週間後、預かっていた通帳や資料をご親族にお返しして、全ての業務が終了となりました。
今回のAさんの一件は、人間の寿命は、本当にわからないものだと、己にも突き付けられた気がします。
漠然と、「今日の次は明日が来る」と思っていましたが、もしかしたら来ないかもしれない。
だから、「人のためになることは、後に延ばさずに、すぐにやらなくてはいけない」のでしょうね。